2025.10.02
「主演だからこそ変わらない」水上恒司が見つめる役者としての責任とは
怪異ミステリーから夫婦愛の物語へ——
18年にドラマ「中学聖日記」のオーディションで主人公の相手役に抜擢されての俳優デビュー。大河ドラマ「青天を衝け」や朝ドラ「ブギウギ」に出演するなど、着実に活躍の場を広げている水上恒司が映画『火喰鳥を、喰う』で初となる映画単独主演を務める。
「僕はデビュー作からかなり恵まれた出方をしてきて、そのときから常に“自分が見るべきもの”を示されてきたんですね。もちろん、家族から『主演で良かったね』と評価してもらえることもわかった上で、主演だからといって、これまでと変わることはなくて。強いて言えば、責任が増える。そこを僕がどう受け止めていかないといけないかっていうことだけでしたね」
どう受け止めたのか——。それは、彼が演じた役のあり方に通じている。幼い頃から打ち込んでいた野球に例えて話してくれた。
「久喜雄司は大学で化学を教える助教の職に就いていて、かなり具象性の高い、現実的な人間なんです。そんな彼が、オカルトや幽霊といった抽象的な事柄と対峙していく中で、愛する妻を守るために信じざるを得なくなっていく。そのグラデーションをどう生きるか。僕がどういうふうにキャッチャーとして受けていくかということに自分の役目があるんだなと感じたんです。今作で言えば、妻の夕里子の球は暴投でもワンバンでも、たとえ痛みがあったとしても、体を張って全部受ける。北斗の球はそもそも受けたくないんだけど、物語が進むにつれて受けざるを得なくなる。それは、そのボールが夕里子にとって必要だから。でも、人によって受け方を変えるのは日常生活の中で誰しもがやってることだと思うんですね。そういった人間の特徴にフォーカスを当てていたし、受け方としても学びある作品になりました」
戦死した先祖の日記が発見されたことを契機に、怪異のような不可解な事件が頻発していくミステリーで、妻の夕里子を元乃木坂46の山下美月が演じ、超常現象に詳しい人物として、Snow Manの宮舘涼太が扮する北斗が“違和感”を湛えて登場する。
「北斗は物語の舵をとっていく操舵手のような存在ですね。めちゃくちゃ胡散臭く見えるけど、自分の話を信じさせる説得力を持ってないといけない。側から見ていて、『おもしろそうだな。この役やりたいな』と思うけど、いざやれと言われたら、すごく難しい役なんですね。だから、舘さん(宮舘)も不安や悩みがあったと思うんですけど、本読みの段階から『僕の北斗、どうだった?』って年下の僕に聞いてくれて。キャリアやプライドもある中で、素直に聞ける舘さんの人間性が素晴らしいなと思ったし、アーティストとして生きてきた“普通じゃなさ”を持ってるからこその異質さを持って演じてくれた。舘さんのこれまでの歴史と価値がうまく北斗にハマっていたなと思いますね」
攻める宮舘と受ける水上の攻防の行方はぜひ映画館で確認してほしい。キーワードとなるのは“執着心”だ。
「僕は執着心はないと思っていたんですけど、服が汚れるのが嫌だから、黒ばっかり着てるんですよ。もしかしたら黒に執着してるのかもしれないし、観てくださった方も自分の中にある執着に気づかされるんじゃないかと思う。その気づきが、この先の人生につながっていく、何かのきっかけになるとうれしいですね」
Koshi Mizukami
水上恒司
1999年5月12日生まれ。福岡県出身。’18年にドラマ「中学聖日記」で俳優デビュー。第99回ザテレビジョンドラマアカデミー賞助演男優賞、第44回日本アカデミー賞新人俳優賞、第33回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎新人賞、第47回日本アカデミー賞優秀主演男優賞など受賞。吉岡里帆とW主演を務めた映画『九龍ジェネリックロマンス』は8月に公開。『WIND BREAKER/ウィンドブレイカー』は12月に公開予定。
『火喰鳥を、喰う』
信州で暮らす夫婦の元に戦死した先祖の日記が届く。その日を境に幸せな夫婦の周辺で不可解な出来事が起こり始める。事態の真相を探るために知人である超常現象専門家の力を借りることになるが、次第に現実が新たな現実に侵食されていく。原作は令和初の横溝正史ミステリ&ホラー大賞で大賞を受賞した原浩著の同名小説。監督は『空飛ぶタイヤ』『シャイロックの子供たち』の名匠・本木克英、脚本は『ディア・ファミリー』の林民夫が務める。
原作/原 浩『火喰鳥を、喰う』(角川ホラー文庫/KADOKAWA刊) 監督/本木克英 脚本/林 民夫(ʼ25年・日本・109分)●配給/KADOKAWA、ギャガ●出演/水上恒司、山下美月、森田望智、吉澤 健、豊田裕大、麻生祐未、宮舘涼太(Snow Man)、他●10月3日(金)より全国公開
©︎2025「火喰鳥を、喰う」製作委員会
●インタビュー/永堀アツオ